【インタビュー】仰木の魅力を守り、伝える。「わさいな〜仰木」の20年とこれから

比叡山の懐に抱かれた大津市仰木(おおぎ)地区。
棚田が広がる美しい風景の中に、地域の人々が守り続けてきた拠点「わさいな〜仰木」があります。

運営を担うスタッフの方々に、立ち上げの経緯や、野菜の販売やランチ営業について、郷土の味「納豆餅」への想いを伺いました。最後には、「わさいな〜」という言葉に込められた意味も教えていただきました。

目次

「この景色を守りたい」という思いから始まった

――「わさいな〜仰木」が始まってから、もう長いとお聞きしました。

「そうですね、もう20年ほどになるかしら。もともとは別の建物があった土地なんですけど、オーナーさんが手放されることになって。この景色のいい場所が他の方の手に渡って、地域の景観が変わってしまうのは困るなという思いが、地区のみんなにあったんです。」

「それで、地区としてこの土地を購入したのが始まりでした。当時、主人の同級生たちが中心になって、『自分たちの手で地域を活性化させなあかん』と立ち上がったんですよ。現在は80歳を過ぎた男性たちが、情熱を持って動いてくれました。」

取材の日も、雄大な仰木の風景を見ることができました

わさいな〜仰木の外にあるベンチから見えるのは、棚田とその奥の山々まで見渡せる絶景。季節ごとに色合いが変わるので、いつ来ても楽しむことができます。
20年前のみなさんの頑張りが、今のこの景色につながっているんですね。

この場所を支えるのは、80歳の元気な力

――現在は「一般社団法人」として運営されているんですよね。

「はい、3年前に法人化しました。お弁当の注文が増えて収益も上がってきたので、きちんとした組織にしようということになったんです。現在は、比良や坂本など、地域外からのまとまった注文も増えています。」

彩り豊かなお弁当

「一番年上の私は今年で80歳になりますけど、みんなで交代しながら、少ない人数で頑張っています。ここで働いて、地域の方と接することが、私たち自身の元気の源になっているのかもわかりませんね。」

――もともとは銀行員や学校の先生など、それぞれ別の場所で活躍されていた方が「地域のために何かしたい!」という思いで働かれているそう。「畑で作業中に誘われた」という地元ならではのエピソードも飛び出し、お一人お一人から前向きなパワーを感じました。

写真撮影前の一コマ。みなさんとても仲が良さそう

一方で、これから先を担う世代にもぜひぜひ加わってほしいとのお話も。大切な場所を次世代につなげていくために、当事者の一人として自分にできることを考えていきたいなと感じました。

スーパーにはない「旬の味」と、会話が弾む直売所

――直売コーナーも朝からとても賑わっていますね。どんな商品が人気ですか?

「土曜日なんかは、開店前から20人くらい並んでくださることもあるんですよ。皆さんのお目当ては、やっぱり朝採れの新鮮な野菜とお米です。」

「スーパーではなかなか手に入らない『花山椒』や『ふき』、『つくし』といった季節の山の幸も人気ですね。ランチでふきを召し上がった方から、「これはここで買えるの?」と聞かれることもありました。」

――お客様から『これ、どうやって食べたらいいの?』と聞かれることも多いそう。保存方法や料理のコツを知ることができたり、新しい食材との出会いがあったり、ただ買い物をするだけでなくちょっとした会話を楽しみにしている方が多いんですね!

仰木の宝物「納豆餅」を次世代へ

――特に「納豆餅」は、とても人気だと伺いました。

「ええ、これは仰木と京都の京北(美山)周辺にしか伝わっていない、珍しい郷土料理なんです。塩納豆をお餅で包んだものですね。先日も、小学校へ実習に行ったのですが、地元の子供達でも「作ったことがない」という子もいましたね。」

仰木の里にある「成安造形大学」の卒業生でありイラストレーターのてらいまきさんがイラストを手がけた仰木のハレの日のご馳走

「お餅は包丁で切れないから、わらしべ(稲の茎を乾燥させた「藁(わら)」の芯)でキュッと切るんですけど、コツを教えると子供たちも上手に切れて、『美味しい』って喜んで食べてくれました。案外、納豆が苦手でも、納豆餅は食べられるという人もいるんですよ」

「最近は海外からのお客様も増えていて。仰木の一部で海外の方のツアーを受け入れているんですが、以前、小椋神社を訪れるツアーで立ち寄られた外国の方が、この納豆餅をすっかり気に入ってくださったこともありました。
地域にお住まいの海外の方も『ここには好物の納豆餅がある』と言って、わざわざ買いに来てくださったり。納豆餅からの国際交流、面白いですよね。」

――海外の方まで虜にしてしまう納豆餅!先日、タイミングよく購入することができ初めて食べたのですが、納豆の味をお餅が優しく包み込み、きなこがまろやかにしてくれていてとってもおいしかったです。(お昼前には売り切れてしまうので、ぜひ土曜日の早いうちに)

誰もが「選ぶ楽しさ」を感じられる場所に

――次は、ランチ営業について聞かせてください。ランチのメニュー作りで大切にされていることはありますか?

「日替わりランチが一品だけでは寂しいでしょう。魚が嫌いな人もいるかもしれないし。だから複数用意しています。小鉢は、その日のお弁当の献立がベースになっています。ランチとは別に単品のオムライスなども選べるようにして、『選ぶ楽しさ』を大事にしたいと思って準備しているんです。」

メインと小鉢数品に、お米は地元仰木の棚田のお米を味わうことができます。お米と味噌汁はおかわり自由なのも嬉しいポイント!
「おばちゃん食堂」という名前の通り、地元のおばちゃんが作る手作りの優しい料理が味わえる、懐かしさと温かさを感じるランチです。

――店内の駄菓子コーナーや「わさいな〜仰木文庫」も、地域の方や子供たちへの愛を感じます。

「駄菓子があるのはいいでしょ。今、近所にないしね。子供たちがお小遣いを持って来てくれるんです。」

「地域の方が趣味で作った作品を展示して、買ってもらえる場所があるのもいいことです。ここに来た人に、思い思いの時間を楽しんでもらえたら良いなと思っています」

――初めて訪ねた時、お店の奥に小さな駄菓子コーナーがあるのを見つけて、大人の私もわくわくしたことを覚えています。大人も子供も、世代を問わず楽しめる空間作りがとっても素敵だなと感じました。

「わさいな〜」という言葉に込めた歓迎の心

「わさいな〜」という言葉の意味を聞かれることがよくあります。これはこのあたりの言葉で、『いらっしゃい』『おいで、おいで』という意味です。最近は若い人や子供たちは使わなくなってしまったけれど、私たちの世代にとっては馴染みのある、温かい言葉なんですよ。」

「一度は消えかけていた言葉かもしれませんが、ここに来てくださる方々に『ようこそいらっしゃいました』という歓迎の気持ちを伝えたくて、この名前を大切にしています。」

「お客様に意味を聞かれることも多いから、改めてどこかに書いておかなあかんなって話してるんです。『いらっしゃい』という歓迎の気持ちを込めてね。」

――「わさいな〜」という言葉の意味を教えていただき、このあたかい場所にぴったりだなと感じました。この場所から、この大切な言葉を再び広めて行けると良いですね。

これからの「わさいな〜仰木」

――最後に、今後の展望を聞かせてください。

「今後はランチの曜日を増やしたり、いつも午前中の早い時間に売り切れてしまう野菜の販売も増やせたらと思っています。そうすることで、もっとたくさんの人にここでの時間を楽しんでもらいたいですね。」

「地域の方の手作り作品を販売していますが、ここもぜひ、もっとたくさんの方に出品していただきたいですね。手作りのものがたくさんの方の目にとまったり買っていただけることは、地域の活性化や生き甲斐にもつながると思っています。」

「他にも、駄菓子コーナーや、自由に読める『わさいな〜仰木文庫』もあります。ランチだけでなく、「ちょっとコーヒーを飲みに」気軽に立ち寄ってもらえると嬉しいなと思っています。」

気になる本を手に、ゆっくり珈琲を楽しめるわさいな〜文庫スペース

「ドライブやサイクリングの途中に立ち寄ってくださる方も増えました。これからも、この素晴らしい景色と、誰もが『また来たいな』と思えるような、温かい場所を守っていきたいですね。」

左から、市田さん・西村さん・上坂さん・北川さん・伊藤さん・伊藤さん

取材を終えて

今回取材をさせていただき、わさいな〜仰木の皆様の温かい雰囲気と前向きなエネルギーにたくさんの元気をいただきました。

時代が変わり、世の中が変わる中で、20年前から美しい景観とこの場所を大切に守ってこられたことは本当に大変だったと思います。

でも、それを語る皆さんの顔は朗らかでやさしく、「仰木が大好き!だから頑張れる!」という気持ちがひしひしと伝わってきて、本当の意味での地域活性は、「自分の住んでいる場所を大切に想う」ことから始まるのではないかなと感じる時間となりました。

皆さんが大切に育ててきたこの場所が、これからも「わさいな〜」「ただいま」と言い合える場所であるように心から願っています。
仰木のおばちゃん特製のランチやコーヒー、地元の採れたて野菜が楽しめる「わさいな〜仰木」に、ぜひ皆さんも足を運んでみてくださいね。

仰木のお店を紹介したマップ。成安造形大学の学生さんが書いてくださったものを譲り受けたそう。
今回ご紹介したお店はこちら

わさいな〜仰木

〒520-0247 滋賀県大津市仰木4丁目2-25
(山中越えのドライブウェイ入り口交差点のすぐ近く)
おばちゃん食堂:火・水・木の11時ー14時
野菜・加工品の販売:土・日の10時ー13時
※最新の営業情報は、インスタグラムやホームページをご確認ください

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